HACCPに基づく衛生管理 〜妥当性確認と遵守検証〜
HACCPの検証はなんだかごちゃごちゃしていてよくわからないんだけど、なにをすればいいのかな?バリデーションとかベリフィケーションとか言われたけど、なんのこと?
HACCPの第6原則に書いてある「検証」は色々な意味の検証が含まれているから、確かにわかりにくい原則になっているね。
この「検証」にはバリデーションといわれる妥当性確認検証と、ベリフィケーションといわれる遵守検証があるんだ。
妥当性確認検証は、例えばCCPの許容限界として、75度1分以上の加熱で病原菌が死滅するから、そのためにオーブンの温度を180度10分と設定した場合に、そもそも製品の中心温度75度1分以上が許容限界として「妥当」なのか、またそれを実現するためにオーブンの設定180度10分が「妥当」な手段なのかを確認・検証することなんだ。これらが正しいことが証明されてはじめて許容限界として正しいといえるよね。
これに対して遵守検証は、妥当性確認を経て決められたCCPの管理方法を担当者が「遵守して」管理・実施しているか、言い換えればHACCPがシステムとしてきちんと機能しているかを検証することなんだ。いくら基準・ルールが正しくてもそれが守られていなければ意味がないということだね。
HACCPはこれら2種類の検証を繰り返して、衛生管理をより適切なものにしていく仕組みだよ。
HACCPの手順11(原則6)は検証方法の設定というタイトルになっています。しかしその内容は大きく分けて妥当性確認と言われるバリデーション(Validation)と、遵守検証、システム検証といわれるベリフィケーション(Verification)という2種類の検証が含まれています。さらにその具体的内容はHACCPシステム全体にわたり、またHACCPチームをはじめとする内部による検証のほか、契約の相手型のような第二者、さらには外部機関のような第三者による検証の場合なども考えられるため、検証作業は多岐に渡るものとなっています。
HACCPチームが内部の検証としてまず考えるべきものは、CCPの検証、一般衛生管理(前提条件プログラム)の検証、HACCPシステムの検証などが挙げられます。
HACCPはPDCAサイクルを回して、衛生管理を最適化、適正化していきます。HACCPの実施にあたっては、これらの検証を定期的に実施し、HACCPシステムのメンテナンスを行ってく必要があります。
HACCP7原則12手順
- <手順1:HACCPチームの編成>
HACCPを導入、実施するにあたってその中心となるチームを編成します。 - <手順2:製品についての記述>
HACCPによって管理する製品の仕様書を作成します。 - <手順3:製品の用途、対象消費者の明確化>
製品の用途や対象となる消費者を明らかにします。 - <手順4:フローダイアグラムの作成>
製品の製造工程をフローダイアグラムによって明確にします。 - <手順5:フローダイアグラムの現場確認>
作成したフローダイアグラムが実際の製造工程と一致しているか確認します。 - <手順6(原則1):危害要因の分析>
工程ごとに原材料由来や工程中に発生しうる危害要因(食中毒や異物混入等の原因)を列挙して、管理する方法を挙げていきます。 - <手順7(原則2):重要管理点の決定>
危害要因を取り除き、あるいは低減させるために特に重要な工程を決定します。(加熱殺菌や金属探知など) - <手順8(原則3):管理基準の設定>
原則2で特定した重要な工程を適切に管理するための基準を設定します。(温度、時間など) - <手順9(原則4):モニタリング方法の設定>
重要管理点を正しく管理するための確認方法や頻度を設定します。 - <手順10(原則5):是正措置の設定>
モニタリングの結果、管理基準が逸脱したときに実施する改善措置を設定します。 - <手順11(原則6):検証方法の設定>
HACCPが適切に機能しているか、修正が必要かどうかを判断するために必要な検証方法を設定します。 - <手順12(原則7):記録と保存方法の設定>
HACCPが実施され、問題が生じた際に原因究明に役立つよう記録を維持・管理する方法を設定します。
検証の定義
検証は、HACCP計画が正しいものであり、システムが計画通りに運営されているかを決める、モニタリング以外の活動といわれます。すなわち「やっていることは正しいか」「やると決めたことをきちんとやっているか」という二つの意味が含まれています。
このうち、「やっていることは正しいか?」は、言い換えると、そのHACCP計画で安全性が本当に確保できるのかということです。これはHACCP計画自体の正しさを検証することであり、妥当性確認(Validation)といわれます。
これに対して「やると決めたことをきちんとやっているか?」は、計画通りにHACCP計画が実施されているか、間違いや手抜きがないかを検証することです。システム検証や遵守検証といわれ、狭義の検証(Verification)ともいわれます。
CCPにおける妥当性確認(バリデーション)
HACCP計画の妥当性を科学的に証明するのが妥当性確認(バリデーション)です。HACCP計画が正しく行われた場合に、ハザードを有効にコントロールできることを示す科学的に示す必要があります。
例えば、CCPの許容限界として、オーブンでの180度10分以上の加熱を設定したとします。果たしてこの許容限界の設定は、妥当なのでしょうか。HACCPが衛生管理として正しく機能するためには、この許容限界が科学的に正しいものでなければなりません。
この許容限界は、製品をオーブンで180度10分以上の加熱することにより、製品の中心温度75度1分以上となり、芽胞非形成菌は死滅することから決定したものです。この75度1分という基準は大量調理マニュアルに記載があり、非芽胞形成菌が死滅する基準として厚生労働省が責任を持ってくれているものといえます。そのため、科学的な証明があるといって良いでしょう。ではオーブンで180度10分以上加熱することにより、製品の中心温度は75度1分以上という基準を満たすのでしょうか。これには社内実験が必要です。
このようにしてCCPの妥当性を検証、確認していきます。
CCPにおける遵守検証(ベリフィケーション)
CCPにおいては遵守検証(ベリフィケーション)も問題となります。CCPはHACCPシステムの肝であり、ここが適切に運用されていなければHACCPは機能しないも同然です。
そこで、CCPにおいては特に下記の三点をチェックしてCCPのコントロールが適切に行われているかを検証します。
- 記録の確認
出荷前に、各CCPのモニタリング記録の確認や逸脱と是正措置の記録を確認し、出荷する製品が適切にコントロールされたことを検証します。 - 機器の較正
モニタリング、是正措置、検証に用いる測定機器の正確性を審査して記録の適切性を担保します。 - 独立したチェック
ハザードがコントロールされていることをモニタリングとは別の方法で確認すること、またモニタリング担当者に間違いや手抜きがないか、上司などによるチェックを行うことにより、CCPコントロールの適切性を確認します。
一般衛生管理(前提条件プログラム)における検証作業
一般衛生管理(前提条件プログラム)においても妥当性確認が問題となる場合があります。もっとも一般衛生管理は通常、CCPの許容限界のように具体的な基準を掲げて管理するものではありません。そのため全てのプロセスに妥当性確認が要求されると考える必要はありませんが、CCPに関連する一般衛生管理や、CCPの許容限界のように具体的な数値を示しての管理に馴染まないが、より注意が必要な一般衛生管理については妥当性確認を行うべき場合があります。
たとえば、アレルゲンの清浄や環境病原体の清浄を目的とした一般衛生管理などが挙げられます。これらについて、標準作業手順(SOP)の書類審査や作業内容の監査を年に一回程度は行い、一般衛生管理、前提条件プログラムとして今でも有効に機能しているかを確認します。場合によっては、微生物スワブ、アレルゲン検査キット、またはその他の方法でテストして、ターゲットとする汚染物質が除去されていることを確認します。
また一般衛生管理における遵守検証においては、標準作業手順(SOP)に従って行われているか、その作業はモニタリングされ、適切に記録がとられているか、独立したチェックが行われているか、プログラムは必要に応じて変更・改訂されているかといった点が問題となります。
妥当性確認(バリデーション)のタイミング
妥当性確認は、HACCP計画でのハザードのコントロールを正当化する科学的な根拠です。そのため、まずは最初にHACCP計画を策定した際に当然必要となります。この際には専門書や規制及びガイドライン、専門家の意見や実験データなどを収集し評価することで妥当性を確認します。
また実行しているHACCP計画がいまだに有効であることを確認するため、最低年一回を目処として定期的な再評価を行う必要があります。
さらに一般衛生管理・前提条件プログラムの変更や、食品の記述内容に変更、製品の説明、製造工程に関わることの変更など、重大な変更が生じた場合にも再評価を行う必要があります。
HACCPチームは常に最新の科学、技術的情報に照らして適切な妥当性確認が行えるよう、製品や原材料についての新たな情報や、同様の他社製品での食中毒、製品のリコール情報など、各種情報に敏感でなければなりません。
システム検証、遵守検証(ベリフィケーション)
HACCP計画が計画通りに行われているかの遵守検証がベリフィケーション(Verification)です。これには内部、第二者、第三者による検証があり、HACCP記録の審査と現場での監査が含まれます。
- HACCP記録の審査
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HACCPに関して作成されている各種記録からHACCP計画が遵守されているかを読み取ります。
- HACCP計画
- 一般衛生管理の記録
- 製品の記述、フローチャート
- モニタリングの記録
- 較正記録を含む検証の記録
- 是正措置の記録
- 前回のシステム検証の報告書
- 現場での監査
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記録の審査、作業の観察、担当者への質問などからHACCP計画が遵守されているか確認します。
- 製品のフローチャートは正しいか
- ハザード分析はフローチャートに沿っているか
- CCPでの活動、モニタリング状況、記録づけ、逸脱時の行動の確認
- 是正措置はどのように行われているかの確認