豆腐店とHACCP

　食中毒の原因となる病原菌の多くは熱に弱く、大抵は75度1分以上の加熱により死滅することがわかっています。しかしその一方で、加熱のような過酷な状況に置かれた際に、自身を芽胞とよばれる防護層で包み込み、高熱に耐える病原菌も存在します。これが芽胞菌とよばれるものです。この状態になると菌は増殖しなくなりますが、何ヶ月、何年という単位でその難環境に耐え続けます。代表的なものとしては、ボツリヌス菌、セレウス菌、ウェルシュ菌が挙げられます。

　芽胞を形成して高熱を耐え抜いた菌は、周囲が生育に良好な環境になると再び活動を始め、あたかも発芽するかのように芽胞を破り増殖を始めます。そのため芽胞菌に対しては、加熱後速やかに冷却して生育に良好な適温環境をやり過ごし、いかに食中毒の危険性のないレベルに菌の増殖を抑えるかが重要となります。

　一般的な豆腐の製造工程においては、熱に弱い病原菌を死滅させる工程となる、大豆を煮沸・蒸煮する加熱工程と、熱に強く煮沸工程では死滅させることができない病原菌の増殖を抑える冷却工程・保管工程が重要管理ポイントとなります。

加熱工程

　原材料となる大豆には、病原性大腸菌や、黄色ブドウ球菌、サルモネラ菌といった病原性微生物が付着している可能性があります。しかしこれらの病原性微生物は熱に弱いため、十分な加熱（中心温度75度1分以上）により死滅させることができます。そこで、大豆の加熱工程をどのように管理すればよいかを検討します。

• 対象とする工程
  加熱工程（煮沸工程）
• 対象ハザード
  非芽胞病原性微生物（病原性大腸菌、黄色ブドウ球菌、サルモネラ菌）
• 許容限界
  沸騰（目安97度から106度）2分以上
• モニタリング（監視）方法
  管理者が、加熱の都度、温度計とタイマーで確認
• 是正措置（問題が発生した時）
  再加熱する、または廃棄する。
  設備を点検し、加熱不足の原因を確認して必要ならば修理を行う。

工程	ハザード	許容限界
加熱工程	病原性微生物（非芽胞菌）	沸騰（目安97度以上）2分以上

モニタリング方法	是正措置
管理者が、 加熱の都度、 温度計とタイマーで確認する。 一年に一度、温度計の校正を行う。	再加熱または廃棄する。 設備を点検し、加熱不足の原因を確認する。 設備の故障の場合は修理を行う。

冷却工程

　大豆にはセレウス菌のように熱に強い芽胞菌も付着している可能性があります。これは加熱工程では死滅せず、増殖が可能な温度（10度から50度、30度前後が特に増殖に適している）になった際、再び増殖を始めます。そこで、加熱後速やかに冷却を行い、病原菌の増殖を抑止する方法を検討します。

• 対象とする工程
  冷却工程
• 対象ハザード
  芽胞菌（セレウス菌）
• 許容限界
  豆腐の中心温度を2時間以内に10度以下に冷却する。
• モニタリング方法
  管理者が、定期的に温度計で冷却水温度（10度以下）を確認する。
  一年に一度、別の温度計で、温度計の校正を行う。
• 是正措置
  製品の状態を確認し、必要に応じて廃棄する。
  保冷剤等を投入し温度を適切に保つ。
  設備の点検を行い、冷却水の設定に異常がないか点検する。
  必要に応じて修理を行う。

工程	ハザード	許容限界
冷却工程	病原性微生物（芽胞菌）	豆腐の中心温度を2時間以内に10度以下に冷却する。

モニタリング方法	是正措置
管理者が、 冷却水の温度（10度以下）を 30分に一度確認する。 一年に一度、温度計の校正を行う。	製品の状態により廃棄する。 保冷剤等を投入し、温度を適切に保つ。 設備の点検を行い、冷却水の設定に異常がないか点検する。 必要に応じて修理を行う。

保管工程

　冷却工程が適切に行われたとしても、保管の工程で不適切な温度管理がなされると、芽胞菌は再び増殖を始めてしまいます。そこでどのような保管を行えばこの増殖を防ぐことができるか検討します。

• 対象とする工程
  保管工程
• 対象とするハザード
  芽胞菌（セレウス菌）
• 許容限界
  豆腐の温度10度以下
• モニタリング方法
  管理者が、朝と夕方に、冷蔵庫の温度5度以下を確認する。
  一年に一度、別の温度計で校正を行う。
• 是正措置
  製品の状態を確認し、必要に応じて廃棄する。
  冷蔵庫を確認し、温度上昇の原因を確認する。
  必要に応じて冷蔵庫の修理を行う。
  

工程	ハザード	許容限界
保管工程	病原性微生物（芽胞菌）	豆腐の温度10度以下

モニタリング方法	是正措置
管理者が、 冷蔵庫の温度（5度以下）を 朝、夕に確認する。 一年に一度、温度計の校正を行う。	製品の状態により廃棄する。 設備の点検を行い、冷蔵庫に異常がないか点検する。 必要に応じて修理を行う。

　豆腐の原材料はアレルゲンとして表示が推奨されている大豆です。大豆製品だけを販売している街の豆腐屋さんの場合はあまり問題とならないかもしれませんが、仮に大豆を原料に含まない製品を一緒に製造しているような場合には、その大豆を含まない製品に大豆が混入してしまう可能性（交差接触・コンタミネーション）があります。そのまま市場に出てしまった場合、大きな問題になりかねません。

　この交差接触・コンタミネーションの防止は、基本的には一般衛生管理の徹底によって図ることになります。検討としては次のような項目が挙げられます。

• 原料大豆と他の原料との保管場所の管理の徹底。
• 製造工程や人の流れ、設備の配置を考慮した物理的接触の回避。
• 使用設備、器具の徹底した洗浄。

　これに対して、例えば製造した豆腐をその店舗ではなくどこかに出荷して販売するような場合は、食品表示義務を負い、ラベルの貼付などが必要になりますから、アレルゲンの問題は、豆腐製品それ自体の問題として重要管理ポイントとする必要性が出てきます。

　例えば、ラベルの誤表示はないか、それを管理するためには何に注意し、何をモニタリングすれば良いかといったことを検討することは、大豆アレルギーによる食中毒事案の防止につながります。このように、アレルゲンの問題もHACCPの重要管理ポイントとして管理する場合も考えられます。