一般飲食店とHACCP

　HACCPは本来工場などで製造している個々の製品ごとにその製造工程を分析して、食中毒の原因となる物質を特定し、それを科学的根拠に基づいて管理する方法です。例えば、重要管理ポイントでは、製品Aについてはオーブンで180度10分の加熱を行うことで病原菌を死滅させることで管理し、製品Bについては、加熱後20分以内に冷却し、10度以下にすることで危険性のない程度に病原菌の増殖を抑えるといった管理を定めて実施します。

　しかしたくさんのメニューを提供している一般飲食店等はこのように個々のメニューごとに管理することは困難です。また商店街の定食屋さんに必ず科学的な根拠に基づいて衛生管理をしなさいというも酷でしょう。そこでHACCPの緩やかな形での運用である「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」では、メニュー全体を見渡し、管理する対象を＜非加熱のもの＞＜加熱するもの＞＜加熱後冷却し再加熱するもの、または加熱後冷却するもの＞の大きく３つのグループに分け、このグループを基本に管理方法を考えて管理計画を作成します。

　また管理する基準についても、科学的根拠や客観的基準のみでなく、視覚や嗅覚といった五感による主観による指標が認められます。一般の飲食店などでは焼き加減やにおいで料理の出来を感じ取るケースも多いので、重要管理ポイントと言っても難しく考えず、今までの調理の過程を具体化すればよいわけです。

　ではなぜこの３つのグループに分けられるのでしょうか。それは食中毒予防の三原則と関係があります。

　食中毒予防の三原則は＜付けない＞＜増やさない＞＜やっつける＞と言われます。このうち、＜付けない＞は主に一般的衛生管理によって対策されるものです。例えば、原材料の受け入れを適切に行なったり、従業員の積極的な手洗いの実施などはまさに＜付けない＞ための対策といえます。

　これに対して食中毒菌を＜ふやさない＞＜やっつける＞ためにはどのようなことをすれば良いのでしょうか。これは食中毒菌の性質に関わっています。

　主な食中毒菌は十分な加熱によって死滅します。そこで＜やっつける＞ために、加熱して提供する料理についてまずグループ分けして考えます。一方で、加熱に強く＜やっつける＞ことが難しい病原菌もいるため＜増やさない＞ことも重要です。そこで、菌が増殖しやすい温度帯に料理を長時間留めないようにすることを考えます。これが加熱後冷却するグループです。そして、そもそも加熱できない料理はどのように提供すれば安全かを考える、これが非加熱のものというグループです。

　グループ分けの理由がわかると、どういった点に注意しなければならないかも理解しやすくなります。そしてこのように食品の加工工程を踏まえて注意点を考える、これはまさにHACCPの考え方といえます。

加熱するもの（冷蔵品を加熱し、熱いまま提供するもの。加熱した後、高温保管を含む。）

ステーキ、焼き鳥、生姜焼き、ハンバーグ、餃子、焼き魚
唐揚げ、天ぷら、フライ各種
炒め物（レバニラ炒め、野菜炒めなど）
茶碗蒸し
ご飯、味噌汁
など

　多くの病原菌は熱に弱く、十分な加熱により死滅します。そこでどのような工程で、どの程度の加熱を行うのか、その後高温のまま保管する場合はどのように保管するのか、という点が管理の基準のポイントになります。

加熱後冷却し再加熱するもの、または加熱後冷却するもの

カレー、シチュー、スープ類、てんつゆ
ポテトサラダ、チャーシュー、ローストビーフ、茹で卵、おひたし
など

　熱に強い病原菌の場合は十分な加熱を行っても死滅しません。そのため、加熱後すぐに提供しない食品の場合、生き残った病原菌が食品の保管中に増殖する可能性があります。そこでいかにこの増殖を抑えるかが重要となり、加熱後の冷却方法や、保管の方法が検討の中心となります。

非加熱のもの

刺身、冷奴、酢の物、サラダ各種
他の食品に添えるもの（大根おろし、刻みネギ、メンマ、ナルドなど）
など

非加熱のものは当然加熱によって病原菌を死滅させることができません。そこで加熱以外でどうやって殺菌するのか、あるいは保管方法をどうするのかといった点が主な検討課題となります。