HACCPに基づく衛生管理 〜ハザード分析とCCPの決定〜
HACCPチームのメンバーに選ばれたんだけど、HACCP7原則12手順とかさっぱりわからないよ。なんとか製品説明書とフローダイアグラムを作り上げたんだけど、このあとどうすればいいのかな?
製品説明書とフローダイアグラムを作り上げたということは、いよいよHACCPの7原則に従ってHACCP計画を作り上げていく段階だね。今回は「HACCPに基づく衛生管理」の肝となる7原則のうち、ハザード分析、CCP(クリティカルコントロールポイント)の決定といわれる部分について説明するよ。
ハザード分析というのは、例えばO157(腸内出血性大腸菌)やノロウィルスのような食中毒の原因物質が、食品の製造工程のどこに存在しているかを検討し、その原因物質を除去、あるいは危なくない程度まで減少させるためには、どこの工程で、どのような管理手段を用いれば良いかを検討する作業のことね。前提となる5手順で作ったフローダイアグラムをもとにそれぞれの工程を順番に一つずつ検討して、病原物質を想定して対処方法を考えていくんだ。
この作業には食中毒や原因物質、その対処方法といった専門的な知識が必要なのは当然だけれど、それ以外にも製造工程や手法について理解している必要もあるし、見えない病原菌がどこに存在するかといった想像力も必要になってくる。ここでの見落としはHACCP計画全体に影響してくるから、HACCPチーム全員でいろいろ意見を出し合ってしっかり検討してみてね。
作成したフローダイアグラムを工程ごとに分析し、発生する可能性のある潜在的なハザードを列挙していくのが危害要因分析(ハザード分析)です。どのような潜在的ハザードが入り込むのか、増殖するのか、生残するのかを分析します。(原則1)
その上で、HACCPとして特別に管理した方が良いハザードを特定する作業がCCP(クリティカルコントロールポイント、重要管理点)の決定です。(原則2)
HACCP 7原則12手順
- <手順1:HACCPチームの編成>
HACCPを導入、実施するにあたってその中心となるチームを編成します。 - <手順2:製品についての記述>
HACCPによって管理する製品の仕様書を作成します。 - <手順3:製品の用途、対象消費者の明確化>
製品の用途や対象となる消費者を明らかにします。 - <手順4:フローダイアグラムの作成>
製品の製造工程をフローダイアグラムによって明確にします。 - <手順5:フローダイアグラムの現場確認>
作成したフローダイアグラムが実際の製造工程と一致しているか確認します。 - <手順6(原則1):危害要因の分析>
工程ごとに原材料由来や工程中に発生しうる危害要因(食中毒や異物混入等の原因)を列挙して、管理する方法を挙げていきます。 - <手順7(原則2):重要管理点の決定>
危害要因を取り除き、あるいは低減させるために特に重要な工程を決定します。(加熱殺菌や金属探知など) - <手順8(原則3):管理基準の設定>
原則2で特定した重要な工程を適切に管理するための基準を設定します。(温度、時間など) - <手順9(原則4):モニタリング方法の設定>
重要管理点を正しく管理するための確認方法や頻度を設定します。 - <手順10(原則5):是正措置の設定>
モニタリングの結果、管理基準が逸脱したときに実施する改善措置を設定します。 - <手順11(原則6):検証方法の設定>
HACCPが適切に機能しているか、修正が必要かどうかを判断するために必要な検証方法を設定します。 - <手順12(原則7):記録と保存方法の設定>
HACCPが実施され、問題が生じた際に原因究明に役立つよう記録を維持・管理する方法を設定します。
HACCP 手順6(原則1):危害要因の分析(ハザード分析)
ハザード分析には6欄表といわれる下記の表を用いて行います。
工程 No. | 予想される ハザード | 重大な ハザードか (Yes/No) | 理由 | ハザードの 管理手段 | CCPか 否か (Yes/No) |
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フローチャートの各工程を「工程No.」に転記し、各工程ごとに想定される危害要因(ハザード)を記載していきます。危害要因は、生物的ハザード、化学的ハザード、物理的ハザードに大別されます。
- 生物的ハザード 食品中に含まれる病原細菌、ウィルス、寄生虫及びそれらの産生する毒素
例:ノロウィルス、ボツリヌス菌、アニサキス - 化学的ハザード 食品中に含まれる有害化学物質
例:アレルゲン、フグ毒、農薬 - 物理的ハザード 食品中に含まれる硬質異物
例:ガラス片、金属片
これら3種類のハザードがどの工程で「存在」するのか、あるいは「発生」や「増殖」、「残存」するのか、原因物質を具体的に挙げながら第1欄、第2欄に記載していきます。ハザード分析はHACCP計画の基本となるもので、ここでの記載漏れはHACCP計画自体の大きなミスに繋がる可能性があります。そこで、ハザード分析においてはHACCPチームによるブレインストーミングなどを用いて、その発生頻度や重篤性を気にすることなく、あらゆる可能性を考えて列挙していきます。
スクロールできます
工程 No. | 予想される ハザード | 重大な ハザードか (Yes/No) | 理由 | ハザードの 管理手段 | CCPか 否か (Yes/No) |
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1,受入 (冷凍鯖) | [生物的] (非芽胞菌) 腸炎ビブリオ の存在 | | | | |
| [生物的] (芽胞菌) ボツリヌス菌 の存在 | | | | |
| [生物的] (寄生虫) アニサキス の存在 | | | | |
| [化学的] ヒスタミン の存在 | | | | |
| [化学的] アレルゲン (鯖) の存在 | | | | |
| [物理的] 硬質異物 (釣り針等) の存在 | | | | |
2,受入 (水道水) | [生物的] なし | | | | |
| [化学的] なし | | | | |
| [物理的] なし | | | | |
3,冷凍スライス 生姜 | [生物的] (芽胞菌) セレウス菌 の存在 | | | | |
| [化学的] 農薬の存在 | | | | |
| [物理的] 異物の混入 | | | | |
(以下省略) | | | | | |
全ての工程につき潜在的ハザードの列挙が終わったら、次は第3欄、第4欄を使用して、その各潜在的ハザードがHACCPで管理すべき重大なハザードか否かをその理由とともに判断していきます。この重大なハザードか否かの判断においては、発生頻度の高さと被害の重篤性の二つの要素がその基準になります。発生頻度が低くても、もし発生してしまえば重篤な症状を生じる場合には重大なハザードと評価される可能性はありますし、逆に重篤な症状には至らないとしても、発生頻度が高ければHACCPで管理すべき重大なハザードと評価すべき場合もあります。
この重大なハザードか否かの判断は画一的なものではありません。例えば一般衛生管理によって管理を行えばその発生を抑えることができ、そのハザードは現実的には起こり得ないなど、HACCPで管理すべき重大なハザードとは評価しないことも可能です。同じような工程であってもある事業者では重大なハザードとされ、他の事業者では重大なハザードではないと判断されることも考えられ、どこまでのリスクを考えて、事業者としてハザードの管理を行うかの評価の問題ともいえることから、HACCPチームは様々な意見を出し合って検討してください。
スクロールできます
工程 No. | 予想される ハザード | 重大な ハザードか (Yes/No) | 理由 | ハザードの 管理手段 | CCPか 否か (Yes/No) |
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1,受入 (冷凍鯖) | [生物的] (非芽胞菌) 腸炎ビブリオ の存在 | Yes | 原料に存在している可能性がある。 事故事例も多い。 | | |
| [生物的] (芽胞菌) ボツリヌス菌 の存在 | No | 加熱工程で栄養細胞は死滅し、 残った芽胞も最終製品が 含気包装のため制御できる。 | | |
| [生物的] (寄生虫) アニサキス の存在 | No | 冷凍で死滅している。 | | |
| [化学的] ヒスタミン の存在 | No | 漁獲後の温度、時間を適正に管理 している信頼のおける業者から 納入している。 | | |
| [化学的] アレルゲン (鯖) の存在 | Yes | 重篤な症状を引き起こす可能性がある。 | | |
| [物理的] 硬質異物 (釣り針等) の存在 | No | 釣り針など混入の可能性があるが、 信頼のおける業者から納入している。 | | |
2,受入 (水道水) | [生物的] なし | | | | |
| [化学的] なし | | | | |
| [物理的] なし | | | | |
3,冷凍スライス 生姜 | [生物的] (芽胞菌) セレウス菌 の存在 | Yes | 毒素により重篤な症状を引き起こす ことがあるため。 | | |
| [化学的] 農薬の存在 | No | 安全データシートを入手し管理している。 | | |
| [物理的] 異物の混入 | No | 規格書を入手する。 製造メーカーでの管理状況の 確認を行う。 | | |
(以下省略) | | | | | |
HACCP 手順7(原則2):重要管理点(CCP)の決定
まず6欄表の第5欄を使用して、ハザード分析でHACCPで管理すべき重大なハザードと評価した工程について、管理手段を検討します。管理手段とは、ハザードを予防もしくは排除、または許容範囲まで低減させるための処置及び活動をいいます。そのため管理手段は、重大なハザードが発生する可能性があるとしたその工程に限らず、その後に行う加熱殺菌工程や金属探知工程等になる場合もあります。
次に、6欄表の第6欄を利用して、第5欄の管理手段のうち、もしそこでコントロールしなければ、製品中にハザードが許容できないレベルで残ってしまう管理手段(重要管理点、CCP)を判断します。HACCPはこのCCPを徹底的に管理、コントロールすることで製品の安全性を保つことができる管理手段といえ、この重要管理点の見極めは安全コントロールの最後の砦といえるものです。
ハザード分析の結果、重大なハザードが複数考えられる場合がありますが、必ずその各々の重大なハザードを管理できる重要管理点が一つはあります。なぜなら、仮にそれがないとすれば、その重大なハザードは管理されずそのまま製品として市場に出回ってしまうからです。
もっとも重大なハザードと重要管理点は必ずしも一対一の関係とは限りません。コントロールが難しいハザードに関しては、複数の重要管理点を設定して管理することもあるでしょうし、逆に複数の重大なハザードに対してひとつと重要管理点でまとめて管理できることもあるでしょう。HACCPチームは、ハザード分析により重大なハザードが漏れなくコントロールできるようCCPを設定します。
スクロールできます
工程 No. | 予想される ハザード | 重大な ハザードか (Yes/No) | 理由 | ハザードの 管理手段 | CCPか 否か (Yes/No) |
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1,受入 (冷凍鯖) | [生物的] (非芽胞菌) 腸炎ビブリオ の存在 | Yes | 原料に存在している 可能性がある。 事故事例も多い。 | 12.加熱調理工程 で管理する。 | No |
| [生物的] (芽胞菌) ボツリヌス菌 の存在 | No | 加熱工程で栄養細胞は 死滅し、残った芽胞も 最終製品が含気包装 のため制御できる。 | | |
| [生物的] (寄生虫) アニサキス の存在 | No | 冷凍で死滅している。 | | |
| [化学的] ヒスタミン の存在 | No | 漁獲後の温度、時間を 適正に管理している 信頼のおける業者から 納入している。 | | |
| [化学的] アレルゲン (鯖) の存在 | Yes | 重篤な症状を 引き起こす可能性 がある。 | 15.印字、ラベル工程 で管理する。 | No |
| [物理的] 硬質異物 (釣り針等) の存在 | No | 釣り針など混入の 可能性があるが、 信頼のおける業者 から納入している。 | | |
2,受入 (水道水) | [生物的] なし | | | | |
| [化学的] なし | | | | |
| [物理的] なし | | | | |
3,冷凍スライス 生姜 | [生物的] (芽胞菌) セレウス菌 の存在 | Yes | 毒素により重篤な 症状を引き起こす ことがあるため。 | 13.冷却工程で 管理する。 | No |
| [化学的] 農薬の存在 | No | 安全データシートを 入手し管理している。 | | |
| [物理的] 異物の混入 | No | 規格書を入手する。 製造メーカーでの 管理状況の確認を行う。 | | |
(省略) | | | | | |
12.加熱調理 | [生物的] (非芽胞菌) 病原微生物 の生残 | Yes | 加熱不十分により 病原微生物が生残 する可能性がある。 | 製品の中心温度75度1分 が守られるように、 加熱装置内温度と 加熱時間を管理する。 | CCP1 |
(以下省略) | | | | | |