HACCPシステムの特徴

　新しい衛生管理の仕組みを導入しなければならないといわれるとどうしても尻込みしてしまうかもしれません。しかしHACCPは提供する食品の安全性の向上という本来の目的のほか、下記のような様々なメリットが考えられます。

• HACCPは継続性を前提とするシステムのため、安全性が持続します。
• クレームへの迅速かつ論理的な原因究明と再発防止が可能になります。
• 経営者の意識向上と従業員の経営参画意識の向上により企業利益につながります。
• 廃棄等の無駄が減少して、生産性の向上につながります。
• 人的・財政的資源の有効的活用につながります。
• 取引先等、対外的な相手に対して衛生管理の説明が容易になります。

　もちろんHACCPを導入したからといって即座にこれらの効果が現れるわけではないでしょう。しかしHACCPは継続性を前提とするシステムです。長期的な視点で取り組んでいただくことでかならず導入して良かったと思える時がきます。ぜひ積極的に取り組んでください。

　従来の食品安全の担保の仕組みは、最終製品に対して抜き取り検査を行なって、危険性を判断することが中心でした。一般の飲食店の場合も提供直前の状態を見て判断することが中心でしょうから、基本的には同じといえます。しかしこれではどうしても検査をすり抜けて市場に出たり、お客様に提供されてしまう可能性があり安全とは言い切れません。仮に提供されてしまえば、回収やお客様対応などの事後処理に追われることになります。
　　これに対してHACCPは、食品の製造工程を科学的根拠に基づいて管理して（工程管理といわれます。）食中毒等の危害の発生を予防的にコントロールするシステムです。例えば、食中毒の危険性のある病原菌が存在する可能性がある場合に、その病原菌が、ある一定の温度と時間で加熱すれば100%死滅することが科学的にわかっていれば、加熱の工程においてその基準に従った加熱を確実に行うことで、その病原菌のリスクを無くすことができます。
　このように製造工程に着目して、科学的根拠に基づいて、予防的に食品の安全性を脅かす可能性のある危害の発生を限りなく最小限にするために設計されたものがHACCPシステムです。

　HACCPの工程管理で問題にするのは、次の三種類です。

1. 1,病原菌による食中毒のような生物的な危害のコントロール
2. 2,アレルギーのような化学的な危害のコントロール
3. 3,異物混入のような物理的な危害のコントロール

　HACCPはこれらの危害の発生を科学的な知見や根拠に基づいてコントロールします。

　HACCPは作業工程に着目して、特定の工程を管理することによって危害の発生をコントロールする仕組みです。もっとも、従業員や設備がそもそも不衛生であれば、そもそも想定していない病原菌が発生してしまったり、必要以上にHACCPのコントロールを厳しく考えなければならないでしょう。
　そのため、従業員や設備の衛生のような一般衛生管理は、HACCPによる管理の当然の前提として実施されるもので、タイヤの両輪といわれます。一般的衛生管理がしっかりおこなわれてはじめて、HACCPも十分に機能することになるわけです。その意味では、全く新しい衛生管理の仕組みを導入するというわけではありません。HACCPは、今までやってきた衛生管理を見直す一つの機会と思って取り組むべきものです。

　HACCPはいわゆるPDCAサイクルを取り入れた衛生管理の仕組みです。HACCPを計画し（Plan）、実行し（Do）、検証し（Check）、改善する（Act）。この一連の作業を繰り返して、より安全な衛生管理の仕組みへと改善していきます。
　現在、義務化に伴いHACCPコンサルタントといわれる方々が様々いますが、ここで注意していただきたいことが、「代理します」というような謳い文句です。
　HACCPは計画（Plan）を作って終わり、導入して終わりではありません。PDCAを回して改善していく、つまり事業者自らが継続的に実施していかなければならない仕組みです。これは厚生労働省のHACCPの案内にも記載されています。

HACCPとは、食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因（ハザード）を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去又は低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようとする衛生管理の手法です。（厚生労働省 HACCP より抜粋）

　HACCPは、業者に丸投げし、代わりに作成してもらって完了するようなものではありません。HACCPコンサルタント選びも、事業者自身が正しくHACCPを理解することが出来、継続的にHACCPを実施していけるような環境を提供できるかどうかという視点で検討していただきたいと思います。

　HACCPは衛生管理を「見える化」するものといわれます。この「見える化」とは、HACCPの実施記録はもちろんのこと、取引記録や各種検討過程などHACCPに関する記録を書類ないしデータとしてきちんと残しておくことです。
　こうして記録を残しておくことは、HACCPシステムのPDCAのうち、検証（Check）において重要です。そしてこの検証なくして改善（Act）はありえないわけですから、その記録の重要性はいうまでもありません。また万が一食中毒のような事故が発生した場合にもその記録を元に原因を探ることで速やかな対処が可能となります。
　このように衛生管理を客観化することで、より安全な衛生管理を目指すシステムがHACCPです。