HACCPに基づく衛生管理 〜CCPの管理〜
ハザード分析をやって重要管理点を決定したよ。今度はこの重要管理点について詳しくみていくようなのだけれど、どういうことを考えれば良いのかな?
重要管理点(CCP)を決定したら、今度はその重要管理点を具体的にどのように管理するかを検討するよ。HACCPは科学的な根拠に基づいた管理だから、かならず何かの基準に基づいて管理されるんだ。その基準を考えて、それをどうやってチェックするのか、万が一その基準から逸れてしまった時にはどうすれば良いか、そういったことをCCPごとに検討するのがこの段階だね。
ハザード分析では、製品の安全上重大なハザードとなる対象を特定し、そのうち特別に管理する重要管理点(CCP)を決定しました。しかし、具体的にどのように管理すれば製品の安全が保てるのかはまだ検討していません。そこで、7原則のうち第3,第4,第5は、重要管理点について、管理基準(許容限界)、モニタリング方法、是正措置を定めることとしています。
- <手順1:HACCPチームの編成>
HACCPを導入、実施するにあたってその中心となるチームを編成します。 - <手順2:製品についての記述>
HACCPによって管理する製品の仕様書を作成します。 - <手順3:製品の用途、対象消費者の明確化>
製品の用途や対象となる消費者を明らかにします。 - <手順4:フローダイアグラムの作成>
製品の製造工程をフローダイアグラムによって明確にします。 - <手順5:フローダイアグラムの現場確認>
作成したフローダイアグラムが実際の製造工程と一致しているか確認します。 - <手順6(原則1):危害要因の分析>
工程ごとに原材料由来や工程中に発生しうる危害要因(食中毒や異物混入等の原因)を列挙して、管理する方法を挙げていきます。 - <手順7(原則2):重要管理点の決定>
危害要因を取り除き、あるいは低減させるために特に重要な工程を決定します。(加熱殺菌や金属探知など) - <手順8(原則3):管理基準の設定>
原則2で特定した重要な工程を適切に管理するための基準を設定します。(温度、時間など) - <手順9(原則4):モニタリング方法の設定>
重要管理点を正しく管理するための確認方法や頻度を設定します。 - <手順10(原則5):是正措置の設定>
モニタリングの結果、管理基準が逸脱したときに実施する改善措置を設定します。 - <手順11(原則6):検証方法の設定>
HACCPが適切に機能しているか、修正が必要かどうかを判断するために必要な検証方法を設定します。 - <手順12(原則7):記録と保存方法の設定>
HACCPが実施され、問題が生じた際に原因究明に役立つよう記録を維持・管理する方法を設定します。
<手順8(原則3):管理基準の設定>
例えば、多くの病原菌は75度1分以上の加熱で死滅することは大量調理マニュアルの指針として明らかになっていて、科学的根拠に基づくものといえます。もっとも、ある製品が加熱工程において実際に75度1分以上の加熱がなされているかは、改めて証明する必要があります。果たしてあなたが使用しているオーブンの設定は、本当に製品の中心まで75度1分以上加熱しているでしょうか。このように科学的根拠に基づく許容限界といっても各事業者ごとに検討しなければならない場合もあることに注意が必要です。
安全性を確保するために、CCPにおいて守らねばならないパラメーター(温度、時間、重量などの値)の最大値または最小値を管理基準(許容限界、Critical Limit:CL)といいます。この基準を逸脱した場合には安全性が保証できない状態となります。HACCPは、重要なハザードをこの管理基準に従って徹底的な管理を行うことで、製品の安全性を確保する仕組みです。
許容限界は専門書や科学的文献、専門家の意見のほか、各種規制や指針など、科学的根拠に基づいて決めることが重要です。また、事業者自身による各種実験などから得られた結果も科学的根拠に基づくものといえます。
<手順9(原則4):モニタリング方法の設定>
HACCPはCCPを管理基準に従ってしっかりと管理することで安全性を確保する仕組みです。そこで、CCPが正しく管理されていることを確認するとともに、将来HACCPシステムを検証する際の資料とするため、管理状況を記録します。これがモニタリングです。
モニタリングの要素としては、誰が、何を、どうやって、どの程度の頻度で対象を確認するかを決めておく必要があります。
STEP
誰が
モニタリングはタイムリーさが求められるため、担当者は実際に作業にあたる人が適切です。そのため、従業員に対する教育や訓練を行うことも必要です。
STEP
何を
モニタリングの対象です。CCPがCLの範囲内で管理されていることを確認するために行う観察、測定または測定の対象ですから、実際に数値等でモニターでき、かつリアルタイムで結果が速やかにチェックできるものが望ましいです。従って、判定に時間のかかる菌数測定などは、ほとんどの場合モニタリングの対象としては利用できません。
STEP
どうやって
計測、連続記録、金属探知機など、様々です。その他、目視など、外観やテクスチャなどの官能的指標もモニタリングの基準とすることが可能です。
ただしモニタリングは実際の作業工程において行われるものです。そのため、業務の負担となるようなものでは確実な実施が期待できなくなります。現場の状況、意見も踏まえて設定します。
STEP
どの程度の頻度で
頻度を決定する要因は、どの頻度でモニターしたらCCPでのコントロールが保てるかという判断と、逸脱発生時に是正措置の対象になる製品数とのバランスです。頻度を高めればモニタリングの手間は増えますが、逸脱時に製品を遡って特定できるトレーサビリティ性につながり、是正措置の負担は軽くなります。逆に頻度を緩めれば、逸脱時の特定は困難になり、被害や是正措置の負担は大きくなるでしょう。
<手順10(原則5):是正措置の設定>
CCPにおいて許容限界を逸脱した場合に取る措置が是正措置です。許容限界を逸脱した製品は安全性を保証できない製品ですから、それが消費者の手に渡ることを防止しなければなりませんから、許容玄関を逸脱した製品全てに対し、例外なく、何を行うのか、誰が行うのかをあらかじめ決めておきます。
是正措置は、以下の要素が含まれるように定めます。
- 逸脱して生産された製品を速やかに分別し、市場に放置しないための手段を定める。
- 逸脱した製品のコントロールを取り戻すための調整手段を定める。
- 原因を追及する。
- 再発防止措置のための手段を定める。
- 是正措置は誰が行うのか定める。
CLからの逸脱を認識してから改善措置を考えるとすれば時間がかかってしまいます。また逸脱時に担当者が冷静に正しい判断を行うことができるとは限りません。そのため、逸脱製品の速やかなコントロールのためには、是正措置をあらかじめ定めておくことが重要です。
CCP管理表の作成
HACCPは衛生管理の見える化です。管理基準(許容限界)、モニタリング方法、是正措置の設定も、設定事項を一覧できるように次のような書式を利用して作成します。
ステップ/CCP | ハザード | 許容限界 (CL) | 誰が | 何を | どのように | どのくらいの 頻度で | 逸脱時の 是正措置 |
---|
12,加熱調理 (CCP 1) | 生物的 腸炎ビブリオ の存在 | オーブンの 庫内温度 130度以上
| 加熱担当者が | オーブンの 庫内温度を | 庫内温度計で | 加熱時の 自動記録 を確認 | 逸脱品の 再加熱 機械の点検・調整 |
| | 加熱時間 8分以上 | | | オーブン タイマーで | | |
(以下省略) | | | | | | | |
管理基準(CL)と運転基準(OL)
管理基準(Critical Limit:CL)は安全性を確保するために、CCPにおいて守らねばならないパラメーター(温度、時間、重量などの値)の最大値または最小値です。これに対して運転基準(Operating Limit:OL)は実際の操業での限界値のことをいい、安全上の理由ではなく、品質上の理由で決められることも多い基準です。
管理基準は安全上の限界の値であり、これを逸脱した場合は製品の安全性が保証できない状態といえ、必ず何かしらの是正措置を行わなければなりません。これに対して運転基準は、その値を逸脱しても例えば品質を保てなくなるに過ぎず、安全性を保証できない状態には至っていません。そのため、運転基準を逸脱しても管理基準を逸脱しない限りは是正措置は必要ではなく、簡易な調整を行うことで製品の出荷が可能と考えることもできます。
管理基準と運転基準の間に差があるほど作業に余裕が出ることになりますが、HACCPが要求している基準はあくまで管理基準、許容限界であることに注意して基準を設定してください。
モニタリング結果の記録
個々のモニタリングを実施する際には下記のような事項を記録します。
- 記録の様式の名称
- 営業者の氏名または法人の名称
- 許容限界(CL)
- 記録した日時
- 製品を特定できる名称、記号(ロット番号等)
- 実際のモニタリング結果(測定結果、観察結果、検査結果等)
- モニタリング担当者のサイン
- 記録の点検者のサイン及び日時
改善措置実施結果の記録
CL逸脱が実際に発生し、是正措置に従って作業を行った際には、その実施記録を取る必要があります。是正措置の記録には下記のような内容を含めます。
- 記録様式の名称
- 営業者の氏名または法人の名称
- 逸脱の内容、発生した工程または場所、発生日及び時刻
- 措置の対象となった製品の名称、記号(ロット番号)、数量等
- 逸脱の原因を調査した結果
- 工程を回復させるために実施した措置の内容
- 逸脱している間に製造された製品等の処分(安全性確保のために製品等の検査を実施した場合は、その結果を含む)
- 実施及び記録の担当者のサイン
- 記録の点検者のサイン
- HACCPプランの見直しまたは改定が必要が否かの評価結果