パン類製造とHACCP

　パン製造は原材料を合わせて捏ね、発酵させて、焼成させる工程を経ます。そして、焼成の工程で有害微生物を死滅させることから、通常はここが重要管理ポイントとなります。「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」においては、五感による判断が認められていることから、視覚的に見て焼成不十分なパンの扱いを正しく行うことで安全なパンを提供することができます。もっとも視覚的に見て焼成不十分なパンはそもそも製品として不適格でしょうから、基本的なパン製造においては、重要管理ポイントの意味はそれほど大きくないとも考えられます。

　これに対して焼成後に加工する調理パンの場合は、その加工内容に合わせて重要管理ポイントを検討します。たとえば、レタスやトマトといった加熱をしない食材を利用する場合には、十分な洗浄、場合によっては次亜塩素酸ナトリウム液のようなものを利用して殺菌する工程を重要管理ポイントとすることが考えられます。

　またカレーパンを考えてみると、その具材となるカレーは、加熱後冷却するものです。これは一般飲食店におけるHACCPで説明していますが、速やかな冷却によって食中毒菌の増殖を防止します。そこでこのような具材に関しては、この速やかな冷却工程を重要管理ポイントとして検討することが考えられます。

　このようにパンの製造工程が異なる場合には、それぞれを場合分けして検討しましょう。

　焼成工程で有害微生物が死滅したとしても、その後の販売に至るまでの工程で有害微生物が付着してしまっては意味がありません。しかしこの「つけない」ための対策は、重要管理ポイントではなく、一般衛生管理で行われるものです。一般衛生管理と重要管理ポイントはタイヤの両輪であり、どちらが欠けても衛生管理は不十分になるため、一般衛生管理もきちんと計画立てて行う必要があります。
　一般衛生管理については次のような事柄を「なぜ必要なのか」「誰が」「いつ」「どのように」「問題があったときどうするのか」といった観点から検討します。

原材料の取り扱い

1. 原材料の受け入れ確認
   腐敗している、包装が破れている、消費期限が切れている、こういったものは、有害な微生物が増殖している可能性があるため、受入時の確認が必要です。
2. 冷蔵・冷凍庫の温度確認
   温度管理が不適切な場合は、有害な微生物が増殖したり、食品の品質が劣化したりする可能性があるため、温度管理に注意が必要です。

施設・店舗の清潔維持

1. 交差汚染・二次汚染の防止
   保管や調理の際に、生卵や生肉などから他の食品へ有害な微生物の汚染が広がる可能性があるため、対策が必要です。
2. 器具等の洗浄・消毒・殺菌
   汚れが残っていると、他の食品に汚れや有害な微生物の汚染が広がる可能性があるため、器具等の取り扱い方法について決めておく必要があります。
3. トイレの洗浄・消毒
   トイレは有害微生物に汚染される危険性が最も高い場所ですから、洗浄・消毒方法について明確にしておく必要があります。

従業員の健康・衛生

1. 従業員の健康管理・衛生的作業着の着用など
   調理従事者の手指や切り傷、汚れた作業着等から食品へ有害な微生物の汚染が広がる可能性があるため、管理方法や対処を検討します。
2. 衛生的な手洗いの実施
   手には目に見えない有害な細菌やウィルスが付着していることがあり、食品を汚染する可能性があるため、手洗い方法やその実施について決めておきます。

その他

1. 廃棄物の管理方法
   廃棄物は汚染された食品を多く含み、そこから汚染が広がく可能性があるため、管理方法や処理方法を検討します。
2. 鼠族・害虫対策
   ネズミやゴキブリなどが調理環境内へ侵入したり発生したりすることは、二次汚染や異物混入の原因となるため、対策を検討します。

　小麦はアレルゲンとして特に注意が必要な７つの特定原材料のうちの一つですが、パンの主原料が小麦であることは一般的に知られていることなので、これが直接問題になることは少ないでしょう。
　アレルゲン管理で危険なのは、本来アレルゲンが入っていないはずの食品に、アレルゲンが混入（コンタミネーション）してしまうことです。
　例えば卵サンドのように卵を利用しているパン屋さんは多いと思いますが、この卵も特定原材料として掲げられているもののうちの一つです。仮に調理工程でこの卵が、卵を使用していないであろう食パンに混入していたとしたらどうでしょうか。
　アレルギーはごく少量でも重篤な症状を生じるケースがあるため、調理器具の共用や洗浄不足などによっても発生する可能性があります。

　このような交差接触・コンタミネーションの防止は、基本的には一般衛生管理の徹底によって図ることになります。検討としては次のような項目が挙げられます。

• 保管場所の管理の徹底。
• 製造工程や人の流れ、設備の配置を考慮した物理的接触の回避。
• 使用設備、器具の徹底した洗浄。

　小麦はアレルゲン表示が義務付けられている特定原材料です。もっとも、街のパン屋さんのようにその店舗で製造してその店舗で販売するような場合には表示義務がありません。これは、目の前の店員さんに原材料を直接確認することができるからとされています。
　これに対して他の場所で販売するような場合は、原材料の確認ができないため、ラベルによる表示が義務付けられます。この場合、ラベルの内容の誤り、アレルゲン表示の欠落などは、重大な事故の原因となりかねません。
　そこで、ラベルの誤表示はないか、それを管理するためには何に注意し、何をモニタリングすれば良いかといったことは、HACCPの重要管理ポイントとしての管理を検討すべきものといえます。