HACCPの考え方を取り入れた衛生管理
うちは小さな居酒屋を20年ほど経営しているんだけれど、こんな店でもハサップを導入しなければならないのかな?もちろん今まで食中毒なんて出したことはないし、毎日衛生管理には気を付けてるから、今更ハサップとか難しいこと言われてもどうすればいいのかわからないよ。
いきなりHACCPなんて新しいことをいわれて困っていると思うけれど、HACCPは全ての食品事業者さんに義務付けられたものだから、導入する必要があるんだ。
でもHACCPといっても従来の衛生管理が基本になっているものだから難しく考える必要はないよ。一般の飲食店や小規模事業者さんは「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」といって、各業界団体が作っている手引きもあるからまずはそれに倣ってやってみれば大丈夫。
今まで問題がなかったということだから衛生管理の基本は守れているはず。まずはHACCPがどういうものなのかを知って、そのエッセンスをあなたのお店の衛生管理に取り入れていこう。
一般飲食店や小規模事業者向けに、HACCPの導入に関する手引書が各業界団体から出されています。これは、7原則12手順といわれるHACCPの基本原則を各業界の衛生管理に緩やかに適用したもので、HACCPに関する知識の少ない小規模事業者等であってもHACCPを実施できるようにしたものです。HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のポイントは次のような点が挙げられます。
- 一般衛生管理と重要管理ポイントの二つの衛生管理を計画して実行する。
- 一般衛生管理は、従来から行われている手洗いや清掃といった基本的な衛生管理にあたる。
- 重要管理ポイントとは、HACCPの特徴である「工程管理」の考え方を取り入れた衛生管理。
- 記録を徹底して、衛生管理を「見える化」する。
- PDCAサイクルを回して、各事業者、各店舗に衛生管理を最適化していく。
HACCPとは?
HACCPは世界で標準的に利用されている衛生管理の手法です。令和2年に日本でも食品衛生法が改正され、食品等事業者に対して義務化されました。
その特徴は、食品加工の工程を分析して食中毒などの原因となる物質を特定し、どの工程でどのような管理を行えば予防できるかをあらかじめ考えて衛生管理計画を立てる点にあります。またこの衛生管理計画を実施するにあたっては、その実施記録を文書化することで衛生管理を「見える化」します。そして各種記録により「見える化」された衛生管理を定期的に見直し、衛生管理計画を改善してより安全なものへと「最適化」していきます。これを事業者自らが継続的に実施していく、この一連のシステムがHACCPです。
- 食品の製造工程を分析し、食品衛生上重要な工程を管理する。
- 管理記録を徹底して、衛生管理を「見える化」する。
- 実施記録を見直して衛生管理の改善を繰り返し、「最適化」していく。
一般飲食店、小規模事業者とHACCP
HACCPをすべての食品関連事業者に義務化するにあたり、一般飲食店や小規模事業者にまで厳格なHACCPシステムの導入を求めることは過度の負担だと考えられました。そこで、一定の事業者にはHACCPを緩やかな形で導入する弾力的な運用が認められています。それが「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」です。
「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」が認められている事業者
- 当該店舗での小売販売のみを目的とした製造・加工・調理事業者
- (例:菓子の製造販売、豆腐の製造販売、食肉の販売、魚介類の販売等)
- 提供する食品の種類が多く、変更頻度が頻繁な業種
- (例:飲食店営業又は喫茶店営業、そうざい製造業、パン製造業(消費期限が概ね5日程度のもの)、学校・病院等の営業以外の集団給食施設、調理機能を有する自動販売機を含む)
- 容器包装に入れられ、又は容器包装で包まれた食品のみを貯蔵し、運搬し、又は販売する営業者
- 食品を分割して容器包装に入れ、又は容器包装で包み小売販売する営業者
- (例:八百屋、米屋、コーヒーの量り売り 等)
- 小規模事業者(食品の取扱いに従事する者の数が50人未満である事業場)
HACCPの考え方を取り入れた衛生管理とは?
一般飲食店や小規模事業者は、HACCPが義務化されたといってもHACCPがどのようなものなのか、実際何をすれば良いのかわかりません。そこで各業界団体がHACCP導入のための雛形となるような手引書を作成しています。この手引書に従って行う衛生管理が「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」です。具体的には以下を実施することでHACCPに沿った衛生管理を行っていると認められます。
小規模営業者等が実施すること
- 手引書の解説を読み、自分の業種・業態では、何が危害要因となるかを理解し、
- 手引書の雛形を利用して、衛生管理計画と(必要に応じて)手順書を準備し
- その内容を従業員に周知し
- 手引書の記録様式を利用して、衛生管理の実施状況を記録し、
- 手引書で推奨された期間、記録を保存し、
- 記録等を定期的に振り返り、必要に応じて衛生管理計画や手順書の内容を見直す
もっともHACCPは事業者自らが、事業所ごとに衛生管理を最適化するものです。そのため、手引きはあくまで参考であって、手引きに倣えば完結するというものでもありません。HACCP制度を理解して継続的な実施、記録を行い、計画の見直し、改善を図って、より安全な衛生管理を実現するようにしましょう。
厚生労働省 HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000179028_00003.html
衛生管理計画の内容
「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」において考えなければいけない衛生管理の内容は、一般衛生管理と重要管理ポイントの二つです。
一般衛生管理とは、食品の安全性を確保するための前提となる事項のことです。従来から5S(整理、整頓、清掃、清潔、習慣)として運用されている衛生管理をイメージしてください。仕入れた製品をどのように管理するか、調理施設や器具をどのように清掃するか、従業員の健康や衛生はどのように管理するか、といったことを具体的に検討、計画するのが、一般衛生管理です。
5S
整理(せいり) | いらないものを撤去する。 |
整頓(せいとん) | 置く場所を決め、管理する。 |
清掃(せいそう) | 汚れがない状況にする。 |
清潔(せいけつ) | 整理、整頓、清潔ができていて綺麗な状態。 |
習慣(しゅうかん) | ルールを伝え、ルール通りに実施することを日常化させる。 |
習慣(しゅうかん)は躾(しつけ)とされることもあります。
これに対して重要管理ポイントとは、HACCPの衛生管理の特徴である「工程管理」のことです。食中毒には例えば病原菌のように必ずその原因があります。この原因がどの工程に存在するかを特定して、どのように対処するのかをあらかじめきめたものが重要管理ポイントです。例えば調理における加熱工程はこの病原菌をやっつけるための工程です。また冷蔵庫に保管するのは、病原菌を増やさないための工程といえます。この重要管理ポイントは製品や工程、事業施設によって異なることに注意が必要です。
いくら重要な工程をしっかり管理したとしても、その工程を行なっている環境が汚染されていては十分な衛生管理はできません。そのため、一般衛生管理は重要管理ポイントの必要不可欠な前提であり、車の両輪である、というように喩えられます。そこでHACCPの考え方を取り入れた衛生管理では、一般衛生管理と重要管理ポイントの双方を一つの大きな衛生管理の仕組みとして捉えています。
記録と衛生管理の「見える化」
HACCPは、一般衛生管理、重要管理ポイントの管理計画を作成して終わりではありません。その計画に沿って衛生管理を実施し、その結果を日々記録していきます。こうして衛生管理を「見える化」することもHACCPの目的です。
記録があることによって衛生管理が実際に行われていることがわかるのはもちろんですが、記録の見直しによって現在の問題点が明らかになり、改善点も見えてきます。このようにHACCPの「見える化」のポイントは、実施した内容を客観的な記録として残すことで、後日確認・検証できることです。
そのため「良」や「○」で埋め尽くされた記録はもちろん良いことですが、それ以上に、「否」や「×」が生じた際に、その原因がなんだったのか、衛生管理計画書に従って対処を行ったのか等について、きちんと記録しておくことが大切です。また、仮に記録を怠ったならばその怠った事実をそのまま記録として残します。それによって、何故怠ったのか、どうすればきちんと記録できるのかを検証することができます。ありのままの事実を記載し、その記録をもとに検証して改善していく、これがHACCPのポイントです。
こうして日々の衛生管理の行き届いた店舗は、食品の安全とともにお客様の信頼、安心につながりますから、手引書などを参考に使い易い実施記録を作成し、ぜひ習慣づけて実施してください。
PDCAサイクルと衛生管理の「最適化」
HACCPは各事業者・店舗に応じた衛生管理計画の「見える化」「最適化」を行うことで、より安全な衛生管理を目指すものです。つまり、そのお店にあった衛生管理計画を作成し、それを実施、記録(見える化)します。そしてその記録を定期的に評価・検証することで最初に作った衛生管理計画を見直します。見直した衛生管理計画を再び実施・記録し、評価・検証します。この作業を繰り返すことで、より良い衛生管理計画にしていき(最適化)、安全・安心な食品の提供を実現していきます。この一連のサイクル(PDCAサイクル)を事業者自らが実施していくことが重要です。
Plan(計画する)
-
一般衛生管理、重要管理ポイントを計画・作成する。
- Do(実行する)
-
一般衛生管理、重要管理ポイントの管理を実行し、記録をつける。
- Check(検証・評価する)
-
記録に基づいて、衛生管理状況を検証・評価する。
- Act(改善する)
-
検証・評価に基づいて、一般衛生管理、重要管理ポイントを見直し、改善する。
記録の改善、見直しにおいては、衛生管理計画の正しさとともに、衛生管理計画の方法に無理がないかという視点も大切です。忙しい業務の中、毎日記録をつけることは、特に記録を始めたばかりの頃は大変な作業だと思います。無理な衛生管理計画では日々の記録を怠るだけでなく、場合によってはいい加減な記録を作成してしまうことも考えられます。それでは記録の意味がなく、衛生管理計画が機能しません。現場の従業員に対して記録の意味や重要性について衛生管理教育を進めるとともに、従業員の意見なども聞きながら、無理なく継続でき、実効性のある衛生管理計画へと改善していきましょう。